富山市 旧大沢野町田村町の地蔵堂 平井一雄

町かど・道ばたの文化財

田村町の地蔵堂

田村町の「天狗の松」と怪火

 田村町には「天狗の松」と呼ばれている怪異な枝ぶりの松の巨木があった。この「天狗の松」も飛騨街道の松であった。 それを伐ったとき、木から血が流れ、樵夫は病気になったと伝えられている。

この「天狗の松」にまつわる事件がある。

 大正十三年、田村町に三件の出火があった。どの火災も月は異なるが同じ二十三日であったが、失火とされて処理された。ところが、この火災について、町内から妙なうわさがたちはじめた。火が出るとき、必ず大きな音がするというのであった。うわさはうわさを生んで「天狗の松」が怒って火を出すのに違いないということになった。

 町でもほっておけず、三度目の火事のあと神主さんを呼んでお祓いをし、この松を切り倒してしまった。

そのためか、その年は火事がなかったが、翌十四年九月の日も同じ二十三日の午前二時過ぎ、またまた田村町から出火した。この時は、おりあしく南の風が強く、町内を流れる用水もどうしたことか水がなかったため、二十九戸を全焼する大火となった。

警察では、出火の場所が火の気のない屋根裏であることに不審を持ち、さきの三回の火災をあわせて捜査し、容疑者として同じ町に住む料理業の男を捕らえた。

取り調べでは、保険金搾取を目的に、まず近くの家に放火し、自宅の延焼をねらったという今までのいっさいの犯行を認めた。それによると、毎月二十二日、料理屋の会合から帰ると、その足で用水の水を止め、それから放火の準備にとりかかった。その方法としては、火薬を三個か五個綿で包み、綿をかたく丸めて野球のボールぐらいの大きさとし、これに火縄をつけ、点火して目的の個所へ投げ込んだのであった。

天狗が怒って大きな音を立てたというのは、この火薬の破裂する音であった。 犯人は富山地方裁判所で情状極悪とされ、終身の刑を宣命され服役した。参考 文献『警察風土記』昭和五十一年発行

 この松のあったところに祠堂が祀られていて中に三体の石仏がある。中央は近くの早瀬家ゆかりの地蔵さんである。

 田村町の有志の人達が「天狗の松」の霊地に「防火・招福」の願いをこめて天狗像・金毘羅像を祀った地蔵堂を建立されたのであろう。

早瀬家では毎年夏、地蔵祭を行っておられる。完

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